イノベーションは(技術)進歩ではありません。既存の次元の上を前や先に行くのではなく、次元そのものが変わる。この非連続性にイノベーションの本質があります。進歩が「できるか・できないか」であるのに対して、イノベーションは「思いつくか・つかないか」の問題です。なかなか「思いつかない」。だからこそイノベーションは稀な現象なのです。
しかし、だからといって新奇で突飛なことをやろうとしても、イノベーションになりません。イノベーションは供給よりも需要に深く関わっています。世の中に受け入れられ、 社会にインパクトを与え、人々の生活が変わる。ここにイノベーションの究極の目的があります。それまで誰も思いつかなかったけれども、言われてみれば多くの人が「なぜ今までこういうものがなかったんだろう……」 とむしろ不思議に思う。優れたイノベーションほどそうした面があります。
「言われてみれば当たり前」であるにもかかわらず、なぜ「思いつかない」のか。それはどの業界にも「思い込み」があるからです。「見て見ぬふり」といってもよい。どの業界にも、あらためてじっくり考えてみれば、明らかに矛盾にみちた「ヘンなこと」があるものです。どう考えてもヘンなのに、「この業界というのはそういうもの だから……」という思い込みで、ヘンなことが手つかずのまま放置されている。思い込みにとらわれた業界内部の人々が(ほとんど無意識のうちに)見て見ぬふりをしている根本的な矛盾を直視する。そうした矛盾を 正面から突く。そこからイノベーションが生まれます。
投資の世界ではどうでしょうか。考えてみれば、これほどあからさまな(ただし業界内部の人々は見て見ぬふりをしている)矛盾に満ちた業界も珍しいと 思います。口では「企業価値」といいながら、短期的なキャピタル・ゲインの追求に明け暮れる。「モノ言う株主」といいながら、実際に言うことは、即効性はあるかもしれないけれども、長期的には本当の意味での 企業価値にネガティブなインパクトを与えるような目先のコスト削減やリストラ策ばかり。
考えてみれば、これまでの投資ファンドは、寓話の「北風と太陽」に出てくる北風でした。「買うのは会社。株ではない」。「オマハの賢人」ことウォーレン・バフェットの名言です。この言葉に反対する人はほとんどいないでしょう。自分の思考と判断に基づいて、「優れていると思う会社」に投資する。
そうだとしたら、大切なおカネを投資する以上、長期的で高い目線で、その会社とともに汗をかき、ともに働き、その会社の本当の価値をともに高めようとする、こちらの方が投資家としてむしろ自然な姿の はずです。虚心坦懐に考えれば、投資ファンドの本来の役回りは北風よりも太陽にあるはずです。ところが、投資の世界には「不労所得」という思い込みがありました。平たく言えば「(リスクはとるけれど)楽して (できるだけドカンと)儲ける」というマインドセットです。これが北風的な投資ファンドが支配的となる状況をつくってきました。
北風ばかりが吹きすさぶ投資の世界に、ひょっこりと顔を出した太陽。 それがみさき投資株式会社です。いまのところはまだ小さな太陽ですが、その陽の光はいくつかのきれいな花を咲かせつつあります。投資ファンドの世界にあまり関わりがなかった僕にしてみれば、 みさき投資がやっていることは、「なぜ今までなかったんだろう……」と不思議に思うような、「当たり前」のことばかりです。
『働く株主®』、それは投資の世界における言葉の正確な意味でのイノベーション です。投資後進国といわれてきた日本。その日本発のイノベーションであることにとりわけ意義があります。僕はみさき投資の戦略ストーリーに大きな関心を持ち、心から応援しています。